実習(対面)

解剖実習が昨日から始まった。
何の陰謀か班長になってしまった。


「黙祷」
袋をあける。
確かに人間、なのだが、皮膚はホルマリンで茶褐色になっていて、「ホンモノだと分かっているけどニセモノみたい」という不思議な感覚だった。
「じゃ、袋から献体を出して」
みんな見てるだけでショックを受けてるのに、作業は進められる。
「身長が高すぎて袋からうまく出せないよ。」
仕方ないので勇気を振り絞って持ち上げて袋をズラす。
「すげー重たい」
けど別になんというか、思っていたほどのショックもなく、肩すかしというか。
別に臭くないし、グロテスクでもないし。
一回目は献体の皮膚をゾリゾリ削いでいくだけ。
メスを入れても皮膚がカチコチなのであまり「リアル」な感じがしない。
削ぐ行為よりも、献体にチョークで切開する線をつけていく行為の方が抵抗があった。




普通の人が二十歳まで見る「遺体」の数はどれくらいなのだろうか。
見た事はあっても触った事はほとんどないのではないだろうか。
「ひとつひとつの過程は決して気持ちのいいものではないが、我々の行為には目的がある。それを知らない一般人に行程のワンシーンだけを見せることは決して許されない。」
解剖の先生がそう言っていた。
なるほど確かにそんな気がした。
僕らは「遺体」というものから隔離されて育ってきたのだから。