友達の境界線(続編)

藤子F不二夫のSFマンガにこんなものがある。
主人公はいつの頃からか「生の実感」を失っていた。
自分の思い通りに事が運びすぎるからだ。
それは、予知というものではなく、自分の願望がそのまま現実になってしまうのだ。


この二日間の俺はまさにこんな感じだった。


おととい、実はこんな約束を例の子としていた。
「あさっての大会、会場までどうやっていこうかなー」
え?会場って県営武道館だろ?車で送ってってやるよ。
「ほんとにー?でも先輩はどうするんだろ。私一人乗ってったら悪いなぁ」
先輩に聞いてみたら?
「私知らないんだ、先輩のアドレス」
そか、じゃ後で聞いておくよ。
「お願いー」


その先輩は多分チャリでいくはずだった。
前に送りますよ、と言った時には
「いや、俺チャリ大好きだからいいよw」
と何度も断られていた。
しかし今回は
「マジで?!めっちゃ乗っていきたい!」
とすげえ食いついてきた。意外だった。


今日の朝
雨だった。
先輩とその子を乗せて会場に向かった。
途中、彼女が朝食を買うというのでコンビニに寄った。
先輩と二人きりになった。
「いやあ、マジ助かったわー。試験期間中なのに悪いねえ」
そんなことないですよ。
「俺だったらキレてるわー。なんで俺大会出ないのに送り迎えしなきゃいけねえんだよって」
いやいや、俺がやりたいって言ったんで。下心ありありですよw
「む、じゃあ俺はなんかKYだったな」
そんなことないですよー。


彼女が戻ってきた。
「朝早くからごめんねー、大したお礼できないけど」
缶コーヒーをくれた。
地味にうれしかった。


大会は午後まで続くというので一度帰宅した。
無理して早起きしたのでまた寝た。


2時過ぎ、親が買い物に行くというので車が使えなくなった。
加えて他の部員から
「朝はありがとねー。帰りは私が車出すから任せといて!」
とメールが来た。
もともと「帰りは無理かも」という約束だったので問題ないのだが、少し残念な気がした。


5時頃、親が帰ってきた。
「また会場にいかなくてもいいの?」
と聞かれたので、いいんだと言おうとしたら携帯に電話がかかってきた。
あの子からだった。
「一応大会終わったんだけど、迎えにきてもらえる?」
あれ?なんか迎えに行ったって聞いたけど?
「うん、そうなんだけど人数が多くて」
この大会には一年生も参加していた。彼らは寮に住んでいるので朝は電車できていた。
そうか、今から迎えにいくよ。


帰りは一年生が俺の車に乗りたいと言い出したので、その子は乗らなかった。
それでも、お前ら空気よめゴルァ、とは思わなかった。
少しくらい思い通りにならないことがないと怖い位に、今日は絶好調だからだ。
だから、乗りたいと言って乗ったくせに会話がないというムカつく状況にも俺は至って穏やかだった。


帰りは大学の道場にいったん集合になった。
みんなと少し雑談をしていると主将がやってきた。忘れ物をとりにきたという。
主将は用が済むと足早に帰ってしまった。
するとさっきまで横にいたあの子が、突然主将を追いかけて出て行ってしまった。
そういえば、彼女は部内での自分の役職について主将に相談したいと昨日言っていた。
そうか、帰りは家まで送ってあげたかったのに残念だな。内心そう思った。


しばらくして、もうみんな帰ろうか、という雰囲気になった。
主将たちは帰ったんですかね?
「うん、なんかさっき二人で歩いて帰ってったね」
「よーし!一年生は私の車に乗れー!」「お疲れさまでしたー」
みんな車で帰ってしまい、俺だけ最後になってしまった。
さて、じゃあ帰ろうかな・・
そう思って車のエンジンをかけたが、どうも納得できなかった。
突然別れてしまったのが、バイバイと言えなかったのがどうも引っかかった。


たまらず、トイレに行くついでにとなりの部活棟を見にいくことにした。
もしかしたらそこのロビーで話あってるのかもしれない。
思い過ごしなら、それはそれでいいじゃないか。
今までのパターンでは、俺の思い過ごしのことが多いんだから。


だが彼女はそこにいた。
思った通り、主将と役職について話し合っていたのだ。
俺はビックリしながらも、あれ、みんなもう帰っちゃいましたよ?もしよかったらお送りしますよ、と話しかけた。
「いや、俺はいいや。君はどうすんの?」
「え、わたしは・・」
じゃあ車で待ってるから、ゆっくり話してていいよ!
自分でも驚くような強引さだった。


結果的には主将を途中まで乗せて、最後は彼女を家まで送って行く事ができた。
「今日はありがとうね〜。じゃあおやすみ!」
ああ、バイバイ。


なんつーか、めっちゃ楽しかった。
今度の大会はずっと先のことなので、学部の違う彼女とはまた疎遠になるだろう。
ただ、次に会う時にはもっと身近な感じになっているはずだ。
それだけで満足だった。


運使い果たした感があるけど、明日の試験やべえぞ?ww